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3. CRMS市民放射能測定所

■市民測定所の公開測定データをもとに現状分析を行う
ここでは、福島県を中心に活動しているCRMS市民放射能測定所が公開している食品の放射能汚染測定データをもとに現状分析を行う。個別の細かいことについては公開データを直接ご確認ください。

<データ中には食品以外がいくつか含まれており、それが高い放射能濃度を示していることがあります。このため、放射能濃度の最大値については参考程度に留めてください。>

※現在、中身を精査したものを別途作成中です→公開されました


概要:CRMS市民放射能測定所が2011年5月から約1年半かけて測定した食品の放射能汚染測定データをまとめた。8カ所の測定所で4種類の測定器が使われ、合計で6369件の測定が行われた。測定の大半は福島県内で行われ、全体の7割程度が二本松市と福島市で測定された。測定件数は冬が少なく、秋に多かった。検体の9割が福島県産であった。
放射能濃度の測定平均値はセシウム134が30.94Bq/kg、セシウム137が33.01Bq/kg、全放射能合算が63.56Bq/kgになった。生産地別で最も高濃度のものが見つかった場所は福島県であったが、平均値では群馬県の方が高く、次いで長野県、宮城県の順になった。
全放射能濃度を散布図にプロットした結果、今後の測定を同様に進めていくと減衰して0Bq/kgに達するまでの時間は事故後19.81年かかるという結果になった。同じ計算をセシウム137で行った場合には5年に、セシウム134では3.27年になった。
事故後、最初に設定された暫定基準値500Bq/kgでのスクリーニングは全体のわずか1.4%しか基準値超にならなかった。現在の暫定基準値100Bq/kgでは基準値超になるものは7.1%である。より基準を厳しくしていくと10Bq/kgで36.6%、5Bq/kgで43.8%、検出/不検出かで考えると50.1%が検出として扱われることが分かった。

(1)対象となる期間・場所、使用した測定器
今回の分析対象となるデータの測定期間、測定所の場所、使用された測定器を下記に示す。

 期間  2011年5月25日〜2012年12月16日
 場所
(測定所の所在地)
  • 福島県福島市
  • 福島県南相馬市
  • 福島県須賀川市
  • 福島県二本松市
  • 福島県伊達市
  • 福島県郡山市
  • 福島県いわき市
  • 東京都世田谷区
 測定器
  • Berthold LB200(1インチNaI(Tl)シンチレーション式)
  • ATOMTEX AT1320A(2.5インチNaI(Tl)シンチレーション式)
  • 応用光研 FNF401(3インチNaI(Tl)シンチレーション式)
  • Princeton Gamma-Tech IGC16200SD(ゲルマニウム半導体検出器)

(2)測定件数
各測定所の測定件数を下記に示す。全測定件数は6369件になった(うち欠損値が1件あり)。
二本松市の測定所が最も多くの件数をこなしており、それに次ぐ福島市の測定所と合わせると全体の70%になった。測定の大半は福島県内で行われており全体の96.7%がそれに当たった。福島県外では唯一、東京都世田谷区に測定所がある。



*測定月別
測定件数を月別にまとめたものを下図に示す。最も多かった月は2011年12月で649件、次いで2012年7月の634件になった。全体傾向では秋頃の11月前後の測定が多く、冬場の1, 2月が少ない。



*検体の生産地
検体の生産地(あるいは製造地、入手地、本社所在地など)を都道府県ごとに集計したものを下図に示す。



福島県が全体の9割を占め、次いで宮城県、東京都と続いた。CRMSでは生産地を優先的に登録するようにしているが、それが不明の場合、製造場所、本社、事務所存在地などを登録している。
本来、東京都が生産地になることは非常に稀なため、東京都が多めに出ている理由は、本社や事務所が東京にあるからだと考えられる。

*各測定器の使用回数
各測定所における測定器の使用回数を下図に示す。


測定件数の多い、二本松市、福島市は測定器の台数も多いようである。郡山市でFNF401が1回だけ使われているのは登録の間違いか、動作試験の類いかもしれない(通常、測定器を設置した後の移動は困難なので、1回だけ測定をして終わりということはやられない)。福島市と世田谷でゲルマニウム半導体検出器が稼働している。

(3)測定結果
*放射能濃度の全体傾向(記述統計量)
全放射能測定値を核種別に集計したものを下図に示す。測定対象となる放射能は一般に原発事故由来とされるヨウ素131(I-131)とセシウム134(Cs-134)、セシウム137(Cs-137)である。なお、ここでいう「全放射能合算」とはヨウ素131、セシウム134、セシウム137を合計した値と、核種の区別ができない測定器であるLB200の測定値をそのまま利用した指標である。



ヨウ素131の測定値は最大で280Bq/kg、平均値では0.091Bq/kgになった。測定の開始時期が2011年5月からであることを考えると、ヨウ素131の影響はほとんど残っていないので、ここで出た値は、天然に存在する放射能である鉛214(Pb-214)の影響かもしれない。
セシウム134の測定値は最大で41170Bq/kg、平均値では30.94Bq/kgになった。
セシウム137の測定値は最大で38100Bq/kg、平均値では33.01Bq/kgになった。
核種を区別できない測定器であるLB200の値をそのまま使ったものでは、最大で346Bq/kg、平均では5.98Bq/kgになった。
全放射能合算での最大値は65900Bq/kg、平均では63.56Bq/kgになった。

*測定所ごとの測定値(記述統計量)
測定所ごとの測定値を下図に示す。


南相馬市は測定件数が少ないが、平均値が全放射能合算で552.85Bq/kgにもなり、高濃度汚染されたものを多く扱っていることが分かる。汚染量が最大だったものは、福島市で全放射能合算65900Bq/kgになったものである。測定数の多い二本松市は、平均で23.58Bq/kgで、これは全測定所のなかで一番低い値である(ただし、一部の測定所は測定件数が少ないので、単純な比較はできないかもしれない)。

*生産地別の測定値
全放射能合算値を生産地部別(都道府県)にまとめたものを下図に示す。



最大値は福島県の65900Bq/kgであるが、平均値では群馬県の403.97Bq/kg、長野県の220.87Bq/kgが高く、続いて宮城県の120.08Bq/kgになっている。福島県の65.25Bq/kgよりも他県の方が高い理由はいくつか考えられる。まず、測定件数が少ない群馬県や長野県は高汚染が予想されるものを集中的に測定したのかもしれない。一方で宮城県の場合は、比較的測定件数が多いにも関わらず福島県よりも高い汚染が検出されているため、宮城県の放射能検査態勢がまだ不十分である可能性があるともいえる。逆にいうと、福島県の検査態勢が整ったことで、周辺の他県よりも低い値を維持できているという可能性もある。
(なお、一部のデータには生産地ではなく、製造地、本社、事務所の住所で登録されている可能性があるので注意が必要である。)

(4)測定値の推移
*全核種放射能合算値の推移

東日本大震災の起きた2011年3月11日を起点として、2012年12月16日までの全核種放射能測定値を散布図としてプロットした結果を下図に示す。



横軸は日付(右に行くほど新しい)、縦軸は測定された放射能濃度のBq/kgである。原発事故直後は測定器がなく測定データが存在しなかったため、データなしの状態が続いている。130日目あたりから測定データが増えてきて、そのまま現在にまで至る。
図中の赤線は、最小二乗法によって求められた近似線である。近似線の方程式は y = -0.0093x + 67.231 になった。つまり、2011年3月11日に67.231から始まり、一日毎に0.0093ポイントずつ値が減少していくことになる。
これをもとに将来の測定値を推定すると、上記の図による測定値が0になるまでには 67.231 / 0.0093 / 365 = 19.81年かかるという結果になった。
これは、CRMSに持ち込まれる測定データによるものであるため、「このまま同じような活動を継続すれば、事故後、約19年でCRMSでの測定値がほとんど0になる」という意味であることは注意されたい。

*セシウム137測定値の推移
東日本大震災の起きた2011年3月11日を起点として、2012年12月16日までのセシウム137測定値を散布図としてプロットした結果を下図に示す。



先ほどのデータでは130日目くらいから測定データが揃っているのに対して、こちらでは約180日目まではデータが空白になっている。これは、原発事故が起きてすぐに調達できた測定器が核種を区別しない簡易型の測定器LB200であったからである。この測定器ではCs-137を弁別して定量できないので測定開始から最初の50日くらいは放射性核種ごとのデータが存在しない状態になっている。約180日目から、新たに導入された核種弁別のできる測定器を使い始めたため、Cs-137を定量できるようになった。
最小二乗法による近似線は y = -0.0276x + 50.395 になった。これをもとに値が0になるまでの年数を計算すると 50.395 / 0.0276 / 365 = 5.00年になった。

*セシウム134測定値の推移
東日本大震災の起きた2011年3月11日を起点として、2012年12月16日までのセシウム134測定値を散布図としてプロットした結果を下図に示す。



180日目くらいまでのデータがない理由は先のセシウム137と同じである。
最小二乗法による近似線は y = -0.0374x + 44.658 になった。これをもとに値が0になるまでの年数を計算すると 44.658/0.0374/365 = 3.27年になった。

*ヨウ素131測定値の推移
東日本大震災の起きた2011年3月11日を起点として、2012年12月16日までのヨウ素131測定値を散布図としてプロットした結果を下図に示す。



核種の弁別ができる測定体制が出来たころには既に消滅していたため、ほとんどが不検出扱いになっている。
最小二乗法による近似線は y = 8E-05x + 0.0706 になった。ヨウ素131は既に消滅しているものと考える。
参考までに、チェルノブイリ原発事故から活動を続けているたんぽぽ舎が測定し、公開しているヨウ素131のデータを追加したグラフでは次のようになる。



測定件数はそれほど多くないが、事故直後にヨウ素131が存在し、その減少の速度が急峻であったことが見てとれる。

(5)基準値超え
*全核種での基準値超え検体数
全核種で測定した結果、最初の暫定基準値であった500Bq/kgを超えたもの、現在の暫定基準値である100Bq/kgを超えたもの、より厳しい基準として10Bq/kg、5Bq/kgにしたもの、検出(Detected)か不検出(Not Detected)で集計したものを下図に示す。



最初の暫定基準値であった500Bq/kgの運用ではわずか1.4%しか基準値超にはならなかった。現在の暫定基準値である100Bq/kgであっても基準値超になるものは7.1%である。
一方で、より基準を厳しくしていくと10Bq/kgでは36.6%、5Bq/kgでは43.8%が、検出/不検出(検出限界値未満かどうか)にすると50.1%が基準値超として扱われることになる。

*都道府県別
続いて、都道府県別に暫定基準値500, 100Bq/kgに設定した場合のもの、10, 5, NDにまで設定した場合の基準値超になる検体の割合を下図に示す。











基準を厳しくしていくに従って、基準値超が増えてくるのが分かる。また、被災地は早いうちから基準値超になり、徐々にその周辺地域からも基準値超が増えてくるのが見てとれる。厳密な基準の適用を期待するならば生産地が、北は北海道、青森県、北陸地方では、石川、福井県、それ以外では、西日本の大半ならば不検出の食品になると期待できることが分かった。

(6)食品種別での集計
*測定した食品の大分類
測定した食品の数を種類別にまとめたものを下記に示す。大きな区分(9区分)では、野菜が最も多く全体の56.6%を占めた。続いて穀物、果物と続いた。



*測定した食品の中分類
より詳細な中分類で見ると、下記のようになった。野菜が一番多いのは変わらないが、野菜のなかでも区分がその他になってしまっており、詳細が分からない状況になっている。次いで精米、玄米が続き、その後に加工食品になるがこれもその他、続いて、その他(これは大分類が「その他」で、中分類も「その他」になる、食品分類定義のどれにも該当しないという意味である)が続いた。



*食品分類別の測定値
食品大分類別に集計した測定値を下記に示す。



平均値での比較で最も高汚染だったものは401.10Bq/kgになる肉だった。次いで、その他が287.66Bq/kg、加工食品が104.97Bq/kgになった。

食品中分類別に集計した測定値を下記に示す。



最大値での比較では大きな順から、その他65900Bq/kg、加工食品16740Bq/kg、きのこ15704.19Bq/kg、山菜6169.99Bq/kg、野菜その他4160.31Bq/kg、しいたけ3682.02Bq/kgになった。
平均値での比較では大きな順から、きのこ1739.12Bq/kg、肉その他657.20Bq/kg、しいたけ569.90Bq/kg、まいたけ518.49Bq/kg、その他287.66Bq/kg、なめこ267.37Bq/kgになった。